アメリカツアー面白話 3
 さてさて、そのようなケニー遠藤さんと知り合えて今回アメリカツアーに参加させていただいたわけですが、ツアーはハワイから始まりました。
私は始めに書いたように10月14日に大きなコンサートがあったので最初のハワイ島(Big Island)での2箇所のコンサートは出来ませんでした。16日のホノルル(オアフ島)のハワイ劇場でのコンサートから参加です。ハワイ島にいけなかったのは残念ですが、行ったメンバーが「天気は悪いし、寒いし、大変だったよ。」との事。内心「ラッキー」ではありましたが、そこはそれ行ってみたかったのは確かです。話によるとハワイ島は大きな島ではあるが、その大きさに反比例して何も無い島とのこと。まあ確かに有名なのは天文台と火山くらいですからね。そして天候が悪いのも有名で、山には雪が降るとのことで、所謂「ハワイ」というイメージからはかけ離れたところのようです。
 ホノルル(オアフ島)の次のコンサートはカウアイ島です。ハワイの4島の中では北の外れにあります。ネイティブの発音はカウアイがハワイに聞こえるので話がこんがらかる時が良くありました。ちなみにホテルにチェックインするのは「チキン」に聞こえるので実際「チキン」と私が言うと「チェックイン」と聞いてくれました。そのことをケニーさんに言うと大笑いでした。乗り合いバスのような「アロハ航空」でカウアイに着いて乗っている時間は短いのに降りてからは、何しろ荷物が多いので時間がかかります。やっと島の中ほどのハワイ大学カウアイ分校へ向かってドライブが始まって直ぐにあまりの田舎くさい風景が広がるのにびっくりしました。それをさらに強調するというか、奇妙さを増すというか、さらにびっくりしたのは、いたるところに居る鶏でした。最初は田舎だから農家が鶏を放し飼いしているのだろうな、と何気なく見ていたのですが、そのうち広い草原にも、道端にもいたるところに鶏がいて、その数は尋常じゃないくらい多いのに気がつきました。種類はどうやら一種類のようです。茶色と黒と赤がまだらになった羽毛と大きなトサカが特徴的です。おそらく茶色い卵を産むやつだと思います。そして、飼われている鶏にしてはその行動があまりにも自由奔放なので、思い切って地元の人に「Is this wild chicken」と恥ずかしい英語で聞いてみました。「Sure」とのこと。その後は訳してもらったのですが「推測だけど、誰かが持ち込んだ鶏が野生化して、天敵が居なかったのでこんなに異常に増えたのだろう」とのことでした。実を言うと私は鳥族が苦手で、どうやってもグロテスクな生き物にしか思えなくてその際たるものが鶏なので、この島には住めない!と直ぐ思いました。
 先ほども乗り合いバスの様な飛行機という表現をしましたが、ハワイでは島を行き来するのは殆ど飛行機なので飛行機がバスの感覚です。それが証拠になんと島々を就航する飛行機が自由席なのです。手軽な感じはこのことからもわかります。おそらく政府の保護もあるでしょうから運賃も格別に安いはずです。ところがハワイの人たちにとっては手軽で便利な飛行機のはずですが今のアメリカではもはやそれは許されません。テロの問題以降飛行機のチェックはとんでもなく厳しいので、便利なはずの飛行機で移動することがとてつもなく煩わしいものになっています。しかも私たちは山のような楽器を手荷物で運ばなくてはならないので、その手続きだけでも大きな時間と労力を費やされます。貨物便で大きい荷物を運び(高い運賃がかかります)それ以外の荷物は手荷物扱いで経費を抑えようとしますので、必然早くから空港に行って、手荷物の検査を受けて(今はグループでの受付はしてくれ無くて必ず特定の個人の手荷物として預けますので預ける方も受け付ける方も大変です)預けます。手荷物が重量制限を越えたら機内持ち込みで対処しますので、荷物を預けた後で再度機内持ち込み手荷物の検査があって、気が遠くなるような手続きの後でやっと飛行機に乗れます。現地に到着しても手荷物が全部届いているかチェックして、さらに荷物は開けられて検査されているので壊されていないかチェックして(壊されていても保障はしてくれないそうです)レンタカーを手配して積んで、この繰り返しです。そしてこういう面倒なときでも、アメリカらしい(ハワイらしい?)のんびりというか、ずさんというか、おもしろい事がありました。カウアイ島の次のマウイ島のコンサートが終わってオアフに帰ってきたとき、いつものように壊されていないかどうか楽器ケースを開けてみたら、なんとベビーシューズが入っているではないですか。しかも片方だけです。最初何事かと思ってびっくりしましたが、恐らく私の前の荷物の検査をした時靴を片一方だけ戻し忘れてしょうがないから、次の私の荷物に入れたのだと思います。日本じゃ絶対あり得ない事ですが皆で大いに笑わせて貰いました。
 そんなこんなで、とにかくハワイの島々をめぐっているのに、ハワイという優雅な名前からは程遠い、ひたすら荷物の心配と移動とコンサート会場での設営とサウンドチェックとで時間はどんどん過ぎていきます。そんななかで確実に取れるときに取っておかないといけないのは食事です。のんびりしていて食べ損なってしまうと大変です。今回私より年上の方が3人参加していましたが、最優先な事として「食べられるときに食べておく」は実践していました。今の若い人は「今は要らない」とか「今は食べたくない」などと優雅なことを言って食べることを疎んじている人が多いですが、食べられるときに食べておくは今後の課題だと思います。いろんな危機の時生き抜いていけないと思います。特に私たちはコンサートの前にケータリングが来てその時点で食べておかないと、コンサートが終わって片付けるともう11時近くなっていて食べ物を調達できないこともあるのです。最初私はそれがわからなかったのでおなかをすかして寝ましたし、コンサートの後のビールすら飲めないという悲劇にも遭いました。
 マウイ島は素晴らしい島でした。ハワイ4島のコンサートでは最後のコンサートになりましたが、劇場も素晴らしいし、スタッフも素晴らしい人ばかりでした。劇場はMaui Art & Cultural Center の劇場でCastle Theaterというところで1200人入るところでした。音響も照明も設備がよい上に一流のスタッフが雇われています。とにかく金がかかっていて贅沢な感じです。何もないハワイ島、「観光地」になってしまったオアフ島、いい感じの田舎なのだけどWild Chickenには困ってしまうカウアイ島、と渡ってきて、マウイ島だけは落ち着いたきれいで適当に都会だけど気候も暑すぎなく快適で、風光明媚で、しかも文化に贅沢にお金をつぎ込んでいる、最高の島でした。こんな島なら住んでみたいと思いましたが、なんと快適に住むには、やっぱりお金持ちじゃないと駄目ということが判明しました。しかも生半可な金持ちじゃ駄目らしくて、マウイの一番快適な丘の中腹のあたりには、世界中の金持ちの別荘が集まっているとの事。しかもロックスターやハリウッドの俳優たちの名前がぞろぞろ出てきます。ミックジャガー、ポールマッカトニー、サンタナ等々ですからビバリーヒルズの別荘版てなところでしょう。こんな金持ちばかりが集まる島ですから、税収もあるでしょうし、文化のためには寄付もしてくれるでしょうから劇場が贅沢にできているのも納得できました。もう一度いってみたいところの一つになりました。

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