音楽って何だろう その27

 葉祥明美術館での演奏も無事好評の内に終わって、いよいよE音会は恵比寿ガーデンプレースでのイベントに立ち向かう事になります。将に立ち向かうと言う覚悟でした。
 延べ四日間、一日4回ステージというスケジュールに果たして子供達は耐えられるのか?四日間全員が揃う日が無く演奏は大丈夫だろうか?不特定多数の前で演奏、しかも寒風吹きすさぶ(実際ビルの谷間ですので、ステージのあたりだけ風が強かったりします)中で耐えられるだろうか。移動中に事故があったらどうしようか。等々心配の種は次から次と出てきましたが、もう後戻り出来ません。
 幸いにも森岡さんの後輩達が沢山参加してくれる事になっていたので、それだけが望みの綱でした。練習にも遠路はるばる来てくださって、子供達と交流を持ってくれて、最高の支援でした。普段、子供達が大学生の(しかも音楽大学の)お姉さん達と交流を持つ機会は殆ど無い事ですし、増して同じステージで演奏出来たのですから、貴重な経験でした。何人かの子は、お姉さん達の演奏態度から随分と良い影響を受けたようです。このイベントをやり終えた後、はっきりと違いが現れていました。こういう物って何事にも代え難い宝です。
 思いつく全ての準備をして、初日を迎えました。幸いにも、この年の12月はポカポカした陽気の日が多くて、初日も絶好の天気に恵まれて殆ど無風状態でしたので、先ずは助かりました。来ている客層も思った程得体の知れない感じでは無いので、少し安心しました。その場に居る人達の年齢層が、若くても年取っていても、偏っていると妙な雰囲気が生まれますので困ります。増して一番困るのは、就学前の子供が多すぎると演奏などする雰囲気になりません。この日は適度に年齢層がばらけていて、人もごった返していないので安心しました。実は私は客層を一番心配していました。自分一人なら、そう言う経験を沢山しているので、気持ちをコントロール出来ますが、子供達には演奏する環境が一番問題だな、と思っていました。何と行ってもデパートの屋上の様な雰囲気には、ウルトラマンショーじゃないと駄目なんです。ハンドベルなど以ての外です。
 最初のステージはお昼過ぎの演奏で、お客さんもそれほど集まって来ないだろうから、最初にはうってつけだな、と思っていましたが、何と何と、演奏の時間が迫るに従って、ステージの周りは勿論のこと、一階高い所から見下ろせる通路まで、人が集まって来て演奏開始を待って居るではないですか。これにはちょっと慌てました。
 ステージの後ろで待機している子供達も、想像以上の雰囲気に顔が紅潮しています。一曲目の演奏は明らかに緊張しているのが解ります。曲の出来はともかく、これだけのお客さんが居るのに一曲目の演奏の後の反応が鈍かったら、ただでさえどきどきしている子供達の頭の中が真っ白になってしまうだろうな。その後の演奏はボロボロになってしまうだろうな。と、居てもたってもいられませんでした。自分がステージに立っている方がどんなに楽だろう、と、あらためて感じました。
3分程度の「星に願いを」の間中そんな事ばっかり考えていましたので、長い3分でしたが、曲が終わったとたんに、もの凄い拍手がわき上がりました。これも、こちらが想像していた以上の拍手でした。そして、何よりも、皆さんの拍手している表情が「楽しんでいるよ。」と言うもので、お義理で拍手していないのが良く分かります。次の曲の準備の為に少し間が空くので、ぱらぱらと人が居なくなるのかな、とも思っていましたが、その場で期待して待ってくれています。これほど嬉しい誤算は有りませんでした。
 私は、一回目のステージが終わったら、何はともあれ嘘でも良いから子供達に「良かったよ。お客さんは喜んでいたよ。この調子で頑張ろうね。」と言ってあげるつもりでした。それが、本当にそう言えたのです。初日は、一回目のステージで良いペースをつかめて、その後のステージも益々良い雰囲気で終える事が出来ました。特に最後のステージの時には素晴らしいイルミネーションが点いて最高の盛り上がりで終えられました。ホッと一息つけました。

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