音楽って何だろう その22

 そもそも、森岡万貴さんとの出会いは、東京芸大打楽器科の一年生だった彼女がジャズに興味を持っていて、同じ楽器の私の演奏をジャズクラブに聞きに来てくれたことからでした。音楽を愛しているのが聴いている姿から良く解りました。そして、演奏中の私と同じ気持ちで聴いてくれていることも良く解りました。音楽大学に行っている子には無いタイプでしたので(大体は、楽しむ事を忘れて能面のような顔で聞いている人が多いです)こちらも面白い子だと思って色々お話するようになりました。そのうち、私の家にも偵察に来るようになりました。兎に角、頭の中は音楽の事で一杯という感じでした。
 そのうち、万貴さんの身の上話も出てきて、もう、ご存じの方もいらっしゃるとは思いますが、彼女のお父さんが、中学校1年生の時にお亡くなりになられて、お母さんが苦労して育てて下さったそうです。お姉さんも万貴さんのやりたい事の為に、自分のやりたい事を我慢してくれたそうです。お母さんに、お金の面倒を掛けないようにと芸大に受かるまでの浪人中は、新聞配達をして頑張ったのですが、面白い事に住むところは、芸大の打楽器科の教授の家に押し掛け居候をしたそうです。一年しない内に追い出されたらしいのですが、とんでもないバイタリティーですよね。因みにお金の面倒を掛けない為に、高校も大学も特待生で通したそうで、勉強ももの凄く出来たと言うことです。「今時珍しい」とは、将にこの事でしょう。私が大学生だった頃(30年くらい前)はそんな強者が沢山居ましたが、本当に今は見かけなくなりましたね。私もそれに近い学生でしたから、益々万貴さんが親戚の子の様に思えて色々力になってあげようと思いました。
 そんな、こんなで、それから2年くらいたって、何と、力になってあげるどころか、力を貸してもらう事になって仕舞いました。「きゅりあん」コンサートで子供達に負担を掛けないために、芸大の学生に参加を呼びかけてくれないか、と相談したのです。そうしたら、森岡さんを含めて、3人の参加を得ることが出来ました。これは、心強かったです。
 子供達全員が全曲参加するのは、勿論それだけ見れば悪い事では無いのですが、小さい子が多くの曲に同じように集中するのは難しいので演奏が散漫になります。また、それを避けるために、繰り返しの練習が必要になり練習時間も大幅に増えてしまいます。それをしないと、コンサートで人に聴いていただく演奏にはなりません。勿論、身内だけに聴いてもらうのであれば、少々拙い演奏でもご愛敬ですが、ちゃんと入場料を取って聴いて頂くコンサートでは、それなりの出来が要求されます。とは言っても、物理的にも精神的にも、練習時間を多くするのは大変です。今の子供達は学校以外で沢山の事をやっていますので、練習時間は限られてしまいます。また、本番で失敗しない為だけに、サーカスの訓練の様な練習はやりたくありませんでした。
 その解決策が、一つのパートを複数の人に担当してもらうことでした。しかも、必ず大人と子供がペアになっている状態を作ることでした。音の振り忘れも怖くないし、よしんば間違えても目立ちません。更に良いことに、同じパートに複数のベルが居ることで、共鳴効果で音に厚みが出ることでした。将に一石二鳥でした。
 この時、小学生8人、中学生7人、大人が万貴さん達の応援があったので9人ほどになりました。これで本番の心配も無くなりました。本当に助かりました。万貴さん達の応援が無かったらどうなっていたことやら、、、
 後日談ですが、万貴さん達はこの年の9月に行われる芸大の学園祭で、「きゅりあん」コンサートと同じ内容のプログラムと編成で、芸大生だけの演奏のコンサートをしてくれました。E音会の子供達も聴きに行ったのですが、その心に響く演奏は多くの人に感動を与えたそうです。
 この後も、腐れ縁でE音会は沢山お世話になることになります。森岡万貴さんっていう人は、なんて良い人なんでしょう!!!!   次回は本番の日の話です。続く。      浜田 均

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