音楽って何だろう その19
 
コンサート前のリハーサルで、色んな人間性が見えてくるのは、音楽をやっていて、一番面白い事の一つだと思います。
 本番当日のリハーサルをゲネプロと呼びますが、ゲネプロの、確か3,4日前に全員集まったリハーサルをやりました。そのリハーサルとゲネプロでかなり色んな人柄が解って来ます。
 第一ヴィオリンのジェリーさんはリーダーですので音楽的な打ち合わせは全て彼を通します。打ち合わせをしていても、音楽的にも技術的にも素晴らしい経歴を物語るに余りある才能を持っていることが直ぐ伝わって来ます。演奏の最中もメンバーに対して、音を出すタイミング、テンポなどの指示を体で表さなければならないので、なかなか大変な作業をしています。その割には、結構ひょうひょうとしていて、余りメンバーに細かい事を言わないで、メンバーからの意見を整理整頓する役回りを務めている感じです。私も、信頼の置ける、素晴らしいメンバーとバンドを組んでいるときは、メンバーに要求するよりも、各メンバーの良さを引き出す様に考えます。とは言っても、私の考える音楽を作り出す為には、たまに意見が衝突する事も有りますから、その兼ね合いを計ることは結構大変です。その辺をジェリーさんは見事にこなして居ました。まあ、良いオッサン!と言うのがジェリーさんの印象です。
 第二ヴィオリンは紅一点の、リネットさんです。この時彼女は自分がトレーニング不足だと言うことを気にしていた様です。(アメリカ人に良く有る事ですが、その時期自分の家族の問題を優先していたそうです。)非常に控えめで、余り自分から意見を言わないで、全体の流れを見ている感じでした。第一ヴィオリンとの協調性を求められるパートなので、適材適所という感じです。普段の人柄も同じで、それこそ淑女という印象です。
 ヴィオラのスコットさんは、何とも最高のキャラクターを持っています。ちょっと見には、イギリスに居そうな紳士に見えるのですが、まず「キンチャン」と私の事を呼んだ時はびっくりしました。日本での音楽仲間から私は「キンチャン」と呼ばれていますが、それをアメリカ人に言われたので何だかホットしました。(どうも東さんが教えた様です。因みに他の人はHAMADA-SANと呼んでいました。)そして、お茶目な表情を見せてくれるので、リハーサルの空気が和やかになります。ちょっと休憩があると、一人で何処かへ消えてしまい、彼が帰って来るのを待ってリハーサルを再開します。何とも愛すべき人です。ただし、ヴィオラの腕は凄いです。日本人で彼ほどの腕前のヴィオラ奏者はそうは居ません。そんな名人なのに、と思うと益々良い人です。
 チェロのジョンさんは、年も若くて、情熱を持って音楽している感じでした。若い分だけ、色んな音楽に興味が有るし、チャレンジ精神旺盛です。ジャズベース風の演奏を要求すると、彼は試行錯誤しながらも見事にこなしてくれました。流石、アメリカ音楽で育っているメリットです。まるで私のジャズ仲間と演奏している気分になりました。勿論クラッシク音楽の演奏も素晴らしいのは言うまでも有りません。背も高いし、今様なハンサムボーイだし、チェロを演奏するために生まれて来た様な人です。ただ、4人の中では、親しくなるのに時間がかかるかもしれません。
 さて、この四者四様のアメリカ人に、もしかすると、世界で一番扱いの難しいピアニストのフェビアン・レザ・パネさんが絡むのですから、どうなることやら、と思って居ましたが、すんなりとそれこそ友好的にリハーサルが進んで行きました。
 ゲネプロでもそれほど手こずらなかった、と思っていたのですが、後日談として東さんが言っていたことによると、ジェリーさんは、やはりパネさんの事はシリアスな奴で、私の事はファンキーな奴だと思って居たようです。6人が並んだ写真が有って、パネさんと私が両端に居たのをジェリーが見て、「この写真はシリアスな順に並んでいるね」と言ったそうです。まあ、私の事はともかく、パネさんの人間性も向こうにヨーーーク解った見たいです。 続く   

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