音楽って何だろう その13

 '97年11月29日パナソニックマルチメディアセンターのホールでのE音会自主コンサートの話の続きです。
藤本隆文さんが参加して下さる事になり、しかも、出演料無しで、という願っても無い(なにしろE音会は何時もお金で困っていますので)条件で準備がスタートしました。
 もともとE音会は、マスメディア以外にもっと良い音楽が有って、それを子供達に知って聴いて欲しいと言う思いから始まった会でしたから、私と藤本隆文さんの演奏もプログラムに入れる事になりました。
勿論ハンドベルクラブと共演しなければ、この自主コンサートの意味は有りませんから、早速ハンドベル、ヴィブラフォン、マリンバ、と言う編成で曲選びが始まりました。
 クリスマスの曲をメインに、皆が良く知っていて、しかもこの編成でも映えるもの、と考えて選曲をしましたが、ハンドベルの音域の問題(2オクターブしか無いので、アレンジする時かなり制約を受けます)、練習時間の問題(週1回のペースは、年間で52週しか無いのです。この時点では、20週ぐらいしかありませんでした。しかも、年令の差、理解力の差、等等、予定した通りに消化出来ないのが当たり前なんです。)皆の気持ちの問題(どうしても、本番が近付いて来ないとキアイが入らない。しかも、未だ皆にとってハンドベルクラブはそれほど愛着のある物になっていなかったと思います。これは、時間が解決する事なのですが。)考えれば、考える程、それこそ「仏は作ってみたものの魂が入るだろうか????」と悩みました。兎に角1曲でも早くアレンジを仕上げて、練習に入らないと、とかなり焦りました。
 もう一つ、E音会のハンドベルは、1セット300万円もする良いものと違って、1セットだけの演奏では音量が小さく他の楽器と共演しても、その良さが発揮出来ないと言う事も、小さな発表を何回かする内に分かって来ました。それと、一つのパートを複数の人で担当する方が、精神的負担(ミスして音が出ない時メロディーが変になるので、一人だけで担当すると、パーフェクトな演奏が常に求められ、その緊張感は大変な物です。そんな、いやーーな緊張感は無いにこした事が無いのです。)が無くなり、本番での事故も最小限で食い止められます。それと、同じパートを年令の違う子や大人と組み合わせる事で、余りおつき合いの無い子供同士や、子供と大人が親密になれる、という一石二鳥ならぬ一石三鳥も狙いました。そうすると、今度は、組み合わせをどうするかも非常に大きな悩みの種になってしまいました。
 しかも、パートの人数を揃える為に、色んな人に声を掛けて参加の勧誘をしたのですが、なかなか定着してくれなくて、最終的にメンバーが固定したのは10月のことでした。さあ、後2ヶ月も無いという時期に、今度は全員揃って練習出来ない(大人は仕事と子育ての問題、子供はお稽古事と塾の問題、、、、)という問題が浮上して来て、それぞれの都合に合わせて、練習日を組むと、週3回のペースになってしまいました。これはちょっと、やり過ぎだな、と思いましたが、やるからには恥ずかしく無い演奏をしたい、というのが皆の気持ちでも有りました。しかも、大人と子供が揃って練習するというと、どうしても夜の7時からと言う時間になってしまい、小さな子達には負担になった事も事実でした。この事は大きな反省として、次の年の「きゅりあん」コンサートの練習は小さな子を優先したスケジュールにしました。又、この時の練習スケジュールや内容が負担になったり、不満を生んだのか、パナソニックコンサートを最後に、ハンドベルクラブを止めた大人の人も何人か出てしまい、もっと気楽に参加できるクラブを目指していたので、反省の材料になりました。コンサート自体は成功しましたが、E音会の目的から逸脱してしまったかな、という気持ちがつのりました。人間の気持ちは「覆水盆に帰らず」ですから、その後、気楽なクラブですと訴えても一度感じた事は覆せない様でした。
 とは、言うものの、何回かこの問題に触れていますが、野心に満ちあふれた(野心という言葉は悪い印象になっていますが、青少年の時期何かしらの野心を持って当たり前ですし、それが善くも悪くも歴史も社会も変えて来たと思います。クラーク博士の「Boys! Be ambitious!」という有名な言葉も大志というよりは野心という意味に近いといわれています。)特に中学生などは、発表の場が無いと練習に気持ちが乗って行かないという現実があります。反対に低学年の子や、仕事と子育てに追われている大人にとっては厳しいスケジュールは苦しい筈です。別に人前で緊張して演奏するより、ひとときでも綺麗な音色と音楽に堪能出来ればそれで幸せという人も居るでしょうし、この兼ね合いをどうするかは、開かれたクラブを目指しているE音会の何時も大きな課題です。私は、どちらかと言うと、仲良しクラブが好きなのですが、そうは言っても、発表の後の達成感や、賛辞を受ける喜びなども充分解っていますし、それが目的になってしまうと、辛いのですが、それ自体を否定するものではありません。本当に難しい問題です。
 でも、最近ほぼ2年間活動を続けて来て思うのは、レパートリーが増えて、皆がベルに慣れて、勘所が解ってくると、案外これらの事も解決するのかもしれないと言う事です。発表の予定の時まで無理な練習をしなくても良くなりますし、メンバーも少しづつ何回も曲に接する事で、その曲に自分達独自の魅力を与え、そして愛着も涌くという事に気付いて来ています。新しく入る人も慣れた人とパートを重複させる事で、上手に出来ないにしても、見よう見まねで慣れて上手に出来る様になります。やはり、諦めずにやり続ける、そして、初心を忘れずに何時も反省する。こけの一念、継続は力なり、初心忘れるべからず、と言う事なんでしょう。本当に時間が解決するものって、世の中に沢山ありますね。
 幾ら言葉で良い事を言っていても、行動と懸け離れていれば、信用されないどころか、怒りや憎しみまで生まれます。かといってガムシャラに行動し続けるのは、矛盾や無理を増大させます。私がE音会に関わる事は思った以上に時間と労力を取られていますが、こういう「人の道」を勉強させてもらって、しかも楽しさや喜びをもらって、そして地域の人達と知り合いになれる、という余り有るお返しをもらっています。感謝しています。
 ということで、次回は地域のコーラスにも参加を呼び掛けたお話と、マルチメディアを活用するべく、地域のお父さんに手伝って頂いた、お話です。

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