アメリカツアー面白話 26
 その日は11月11日だったと思いますが、パレードをする体制を整えた町並みに突然何百台というハーレーダビットソンの大群が押し寄せて、それぞれが派手な飾り付けや衣装を身にまとい、どう見てもお爺さんが過半数の年齢構成です。そして皆さん大はしゃぎしているし、スロットルをぐりぐり回すので、エンジンの騒音とガソリンのにおいでとんでもないことになっています。そのバイクの集団が通り過ぎるのに何分かかかって、その次に現れたのはいろんな軍隊のパレードでした。必ずブラスバンドが一緒に行進しているのですが、タイミングが悪くて曲間の打楽器だけの行進ばかりなので、少しずつGrand Central駅に向かって歩きながら見物しました。そのうちブラスバンド全体の演奏を聴けるタイミングになったので、その辺りでしばらく立ち止まって見る事にしました。普通の軍隊のパレードとは何かが違うような感じがしていましたが、まあこんな物かなと思って見ていました。(後で解ったのは、この日は「Veteran’s Day」ベテランズデーという祝日で退役軍人を労う日だったそうです。どうりで年寄りが多いなと思いました。)そのうちパレードよりも見物している人たちに目がいくようになりました。というのも、やたらに拍手が沸くし、応援の声援は飛ぶしで見物エリアが異様に盛り上がっているからです。第二次世界大戦が終わった時のNew York Cityのパレードではビルというビルから紙が舞ってものすごい状態になったという過去の写真でも解るように、アメリカ人のパレードに寄せる熱狂的な行動は有名ですから、それに比べたらまだまだですが、それでもかなり興奮して盛り上がっています。そして、「私たちはあなたたちを応援しているし、誇りにおもっている」という声援や態度を一生懸命に表そうとしています。良くも悪くも民主主義の国では軍隊ですら民衆から支持されているという後ろ盾が必要なのだと思いました。その時の大統領が間違った軍隊の使い方をしても、それは大統領が駄目なのであって軍隊は自分たちの誇りであるし大切なもの、軍隊に罪は無い、と言う考えが浸透しているようです。世界中のあらゆる旧世界からアメリカ大陸に集まってきた人たちがフランス革命に基づく理想的な社会を実現するために歴史を歩んできている、その社会を守るために軍隊がある、と言うことなのでしょう。勿論軍隊などというものは、人殺しの集団である、ということは厳然たる事実ですが、それ以上に民主主義を守るための軍隊と言う「正当性」が勝っているようです。そうは言っても第二次世界大戦以降のアメリカは「ベトナム戦争」「イラク戦争」という大きな戦争や世界中の紛争などで間違った軍隊の使い方をしていたのも事実です。幾らある種の「理想」のための戦いと言っても、「人殺し」をする以上「理想」を踏みにじっているのは明らかです。この60年の間この矛盾とアメリカは向き合ってきています。多くの理想を追い求めているアメリカ人は、民主的な手続きで選ばれた大統領が「理想」とかけ離れた戦争をする、というジレンマに悩まされているし、自分たちが豊かな生活をすることで大きな貧困を世界中に作り出している、という構造に気がついているはずです。そして個人の非力ということを思い知らされているはずです。ところが、アメリカ人はあきらめずに「理想」なるものを追い求めて次の行動を起こします。何というタフな人たちなのでしょう。   続く

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