アメリカツアー面白話 20
 ケニーさんは私と同じ年なので所謂「いちご白書」世代のちょっと後です。アメリカ映画「いちご白書」は大学生になったばかりの、女の子とロック音楽しか頭にない田舎から都会の大学に入学した青年が、少しずつ社会の矛盾に目覚めていき、恋人との関係に悩みながらも学生運動に真剣に取り組むと言う「青春の甘酸っぱい」お話です。この映画のようにアメリカの大学特にU.C.L.A.では60年代から70年代にかけて社会の矛盾に反対する、又アメリカ政府に反対するという事が学生の当たり前の感覚でした。従ってアメリカの伝統的な保守層にとっては大変気に入らない存在です。その当時の反体制の学生達の格好は、男も女も髪は肩まで伸ばしてバンダナではちまきをして、丸い銀縁の眼鏡を掛けて、裾の広がった細いジーンズと素肌に皮のチョッキという格好で、そんな格好の学生は直ぐに警官の尋問を受けます。特にケニーさんは人種的な偏見からも沢山尋問を受けたそうです。そのやり方は将に先ほどの、「足を大きく開いて壁に手を着いて頭を下げる」スタイルなのです。恐らくケニーさんはそれを思い出して嫌な思いをしたことでしょう。だから警官にも文句を言ったのでしょうが、全然取り合ってくれません。
 さてさて、後日談の一番面白い話!実は警官の中に年の若い可愛い白人の女の警官がいました。警官達の中に居るときは厳つい態度なのですが、私たちと単独で接するときは非常に愛想が良く、親切だし、最後には目で「ごめんね」をしてくれていました。まあ警官も色々だな、程度に思っていました。この後Maine州のBrunswickという町のBowdoin Collegeのコンサートでボストンの和太鼓グループと同じコンサートで一緒になるのですが、その人達からその婦人警官の情報がもたらされたのです。なんと彼女はボストンの和太鼓グループのメンバーの一人のガールフレンドで、このコンサートに聞きに来るつもりでいたとのこと。従って「ケニー遠藤」の事は知っていたはずだし例の騒動の時も途中で気がついていたはずなのです。しかし、そこはそれ、職務に忠実であれば彼女の口から取りなすわけにもいかず、恐らくあの優しい態度がせめてもの彼女のお詫びの印だったのでしょう。結局彼女は用事が入って来られなくなったと連絡が入ったそうですが、どう考えても合わせる顔が無い、と言うことだと思います。私たちは是非会ってその後の話を聞きたかったのですが、残念です。まあ、それにしても、アメリカでも「世の中狭いよね」ってしみじみ思ったのが最高の体験でした。
 ところで、Maine州のBrunswickはさすがにカナダに近いだけあって寒いのです。名物はロブスターとのこと。町外れのFairfield Inn(アメリカ中にこのホテルがあってビジネスホテルとしては一番目に付きます。)と言うホテルで3泊しましたが、高校の校長をしていたと言うフロントのおじいさんがとっても親切にしてくれて、最後の夜はロビー近くの食堂をボストンの和太鼓グループとの打ち上げの宴会用に開放してくれて楽しく過ごしました。彼も宴会に参加して、あまりうるさくなると「シーッ」と注意してくれます。英語でも「シーッ」なのは驚きましたが。当然一番盛り上がったのはショッピングセンターの騒動のことで、婦人警官の話題は何回も出てきて、でも最後は「彼女に親切にしてくれて有難うって伝えてね」で終わりました。続く



戻る

次へ

ホームページへ